hello world アートシリーズの英訳について

Qubibiこと勅使河原一雅さんによる hello world は、2012年4月にFRAMED*から発表された4つの作品から成るシリーズです。

この4つの作品はそれぞれ別のコンセプトとタイトルが付いているのですが、hello world という1つの大きなテーマで繋がっています。ここではその hello world シリーズのコンセプトを説明する文章の一部をご紹介します。

先ずは hello world の4作品をご覧ください:

こちらが勅使河原さんによる hello world の説明文です:

hello worldとは―
密集したホットケーキの穴は、やがてくっつき合い、一つの大きな迷路を造りだす ― あらゆる事象にみられる「境界」を表現の根底におき、二度とない絵をリアルタイムに生成していくアニメーション方法に、“hello world”という名前を付けました。人の手を借りずに如何様にも変化する営みの光景。何が描かれ、紡がれていくのか。一連の作品を通して、観察する行為の楽しさを味わっていただけたらば、幸いです。

この文章の英訳で、特に気をつけた部分をハイライトしながら説明していきたいと思います。

密集したホットケーキの穴は、
やがてくっつき合い、
一つの大きな迷路を造りだす

Clusters of potholes merge into one giant labyrinth

冒頭から難しいメタファーが使われていますが、これが今回一番気を使ったフレーズでした。作品のビジュアルや動きの印象を、そのまま言葉に置き換えたような文章です。

この文章の中で一番気になった言葉が「ホットケーキの穴」ですが、そのまま英語にしてしまうと、そもそもホットケーキ=パンケーキ pancake となり、うまくいきません。そこで、敢えてホットケーキの穴を、英語では pothole (コンクリートの道路などにぽっかりとあいているくぼみ、自然発生した小さな落とし穴のようなもの)に置き換えました。直訳で「ホットケーキの穴」→「pancake hole」などとするよりは、なんとなくぽっかりと空いていて、パンケーキではないけど英語では日常で使われる言葉(とくに、アメリカ等の雪が降る地域では雪溶剤のせいでコンクリートが痛んでしまい、春にはpotholeがそこらじゅうにあいています)として「穴」のイメージが掴みやすいと思い、勅使河原さんにも納得していただきました。

「境界」を表現の根底におき

With an underlying concept of ‘borders’ running through the series

この「境界」という単語は、この作品の表現のテーマとなる大事な言葉です。英訳では borders という単語を選びましたが、実は、直訳であれば boundaries となります。どちらも「境界」という意味ではほとんど同じですが、厳密に言うと boundaries = 境界・限界そのものを表し、border = その限界の一番外側の縁や端となります。また、border は国境など、境目というニュアンスも含まれます。この作品の場合は、「輪郭」が滲んだり、くっきりと現れたりする、という理解でしたので、境目・輪郭の意味を含めて、敢えて border という言葉を選びました。

もちろん、border / boundaries からもう少し離れて、全く別の言葉に置き換えても、また違った印象の文章を作ることができます。

例えば、境界 → membrane(膜)とすれば、より有機的であり、同シリーズ中の hello world: Journey Through Inner Self の印象に近づきます。

境界 → outline / contour(輪郭)なら、デジタルな世界の人に馴染みやすい表現かもしれませんが、逆に直接的すぎる可能性もあります。

“hello world”という名前を付けました。

“hello world” is a name given to

この「名前を付けました」という書き方が独特な雰囲気を含んでいるので、これを忠実に訳すために a name given to と訳しました。これは、日本語と同じく、このアニメーション方法自体が独立した生き物のようなニュアンスを英語でも含ませるためです。文法的には this animation is called / this animation is named とも書けることは間違いないのですが、そうすると「こう呼んでいる」「こう言う」となり、「名前を付けました」というニュアンスとは微妙に違ってきます。

人の手を借りずに如何様にも変化する
営みの光景。

a scene of a self-sustained system, a morphing of imagery that occurs without the help of man’s hand.

ここで注目したのは、まずこれが「営み」である、ということであり、それが「人の手を借りずに」、つまり自立したシステムとして成り立っているということ。そして、この作品を鑑賞するということは、つまりはこの「営みの光景」を観察するのと同じである、ということです。

日本語の原文は比較的シンプルですが、上記の内容を踏まえた上で訳さないと、大変な事になります。

例えば、このまま自動翻訳にかけるとこうなります:

Google Translate:
Spectacle of life changing in any way without the help of man.

なんとなく意味は合っていますが、spectacle = スペクタクル(ショー、壮観、見せ物)となり、ニュアンスがズレている上に、文の流れとしてもスムーズではありません。また、any way = 如何様にも、というフレーズも、単体では間違っていませんが、文全体としてみると不自然です。

エキサイト翻訳:
The spectacle of the business which changes at any cost without borrowing people’s hand.

こちらでも同じく「光景」= spectacle と訳されてしまいます。また、「営み」= the business(ビジネス)、「如何様にも」= changes at any cost (何がなんでも)とかなり飛躍しています。「人の手を借りずに」= without borrowing people’s hand も英語としてはかなり不自然です。文章全体として見ても、フレーズ毎に訳したものを無理やり文章として繋げている感じで、文脈も流れも完全に無視されています。

そこで、この文に関しては、特に文章全体としての流れに気を配りながら訳しました。特に「如何様にも変化する」の部分は morph = 変化(コンピューター用語)に置き換え、日本語よりも若干説明的にしています。

人の手を借りずに → without the help of man’s hand
如何様にも変化する → a morphing of imagery
営みの光景 → a scene of a (self-sustained) system

以上を繋げて、出来上がった英訳がこちらです:

Clusters of potholes merge into one giant labyrinth… With an underlying concept of ‘borders’ running through the series, “hello world” is a name given to this particular style of animation in which imagery is constantly being generated in real time. What’s here is a scene of a self-sustained system, a morphing of imagery that occurs without the help of man’s hand. What will it draw? What will it spin out?

この文章は、英訳のサンプルページでもご覧いただけます。


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